「保険」を学ぶにあたって
「保険」を学ぶ意義とは何か?
筆者は授業をする際に、必ず教える内容が生徒にとってどのような学ぶ意義があるのか、自分なりの考えを
明確にしてから授業に望むようにしていました。
中々この答えを見つける事は簡単ではありません。どれほど講師が良かれと思っても、学ぶ生徒の実態で
全く答えが変わってくるからです。
筆者はこれを考えるために、授業をする前にはいつも教科書で教える内容を確認するのですが、
教科書の記述などを検討すると現行の保険制度の仕組み、歴史など「制度面」が中心となった
記述となっています。
なので、授業をする際にも、知識注入型の授業になってしまいがちな範囲でもあるのです。
筆者も初めてこの保険制度について授業をした際に、制度をなぞる上滑りな授業になってしまった
ほろ苦い経験があります。
中学生たちは、まだ自分で稼いでいる子はほぼおらず、親の会社などの保険組合に入っている子が
ほとんどという状況の中、どのように学ぶ意義を見つけさせてあげればよいのでしょうか?
色々な考え方がありますが、筆者の考える生徒にとっての学ぶ意義とは、それを学ぶことで
「自分が将来、それを実際に考える際に役立つ知識である。なので今しっかり学んでおこう」
と思わせるような授業であると考えています。
授業を日ごろ実践されている講師の方なら経験がおありだと思うのですが、
教師が「今日はこれを学習します」といって始める授業よりも、
生徒が「今日はこれを学びたい!」と少しでも思わせるようなきっかけがあるだけで
生徒の授業への関心が全く変わってきます。
本稿では、保険の制度を取り扱う授業で、
生徒にとって学ぶ意義のある授業をどう作るか
という点について、講師の方に考えていただけるような指導法をご紹介します。
保険とは何か?
まず、授業で保険と言う物の仕組みを生徒に身近に感じさせるために、講師はどのような手立てを
すればよいでしょうか?
結論から述べると、筆者は
出来る限り生徒にとって身近なものを教材にすることが有効であると考えています。
もっと具体的にいえば、生徒の生活経験にあるものを教材として利用します。
保険の事を考えるために、まず保険制度とは何か?という入口から入ると思ういます。
授業では以下のような自主教材を用いました。
まず、生徒に実際に聞いたり、見た事があるだろうものを提示します。
授業ではここで生徒に何の場面か考えてもらっています。上から順番に
①:火事が起こって沈火している場面
②:不慮の事故や病気などで緊急入院する場面
③:災害などで家(建物)が壊れてしまった場面
④:車の事故が起こった場面
という4つの場面です。
そして、この4つの場面を設定した次に、筆者は以下のように発問します。
「万が一こうした出来事が起こった場合に必要になる物は何でしょうか?」
保険の根本的な部分がこの発問に詰まっています。
もしこの発問で、伝わっていなかったら、以下のように具体化もします。
「例えば、②の場面、スポーツをしている際に怪我をしてしまい、病院で治療をしてもらいます。
そうなると必要となってくるものは?」
という問いかけをすると大分、問われていることが生徒もはっきりわかってきます。
もう講師の皆さんにはお分かり頂けたかと思うのですが、
このような不慮の出来事が起こって入院したり損害を与えてしまえば、
その後、それに伴う「費用」つまり「お金」が必要になりますよね。
このように、いつ何時起こるか分からない不測の事態に備えて、お金をあらかじめ皆で出し合っておいて
本当に必要になった人に保険金を支払う、
つまり、「リスクに備えた助け合いのシステム」
これが保険です。
さらに、このお金の流れをイメージしやすくするために以下のような教材も提示してあげると
より生徒は具体的なイメージをつかみやすくなります。
この教材を用いて仕組みを説明すると、まず、保険会社には顧客、つまり加入者がいます。
この加入者には、「年に~円」という年会費が決まっています。
なので、保険会社は図にあるように、加入者に支払ってもらったお金を、怪我してしまった
加入者に保険金を支払うという構図が出来上がるのです。
指導の際に注意していただきたいのは、保険金を支払う対象は「加入者」であるという事です。
よく中学生に、怪我したら保険金をあげるなんてなんと素晴らしい業種なのか、と思ってしまう
生徒がいます。この捉え方も間違いではないのですが、
保険会社も民間企業である以上、当然利益を出さなければなりません。
大手保険会社に勤めている友人から実際に聞いた話をご紹介します。
その友人の勤める会社は日本で1.2を争う知名度の会社であると同時に、売上でも毎年必ず
その業界でトップ3の成績を誇る会社です。しかし、それでも中々先行きがクリアとは言い切れず
毎月利益を出すための数字(売上)との戦いをしているそうです。
我々社会人の目線でいえば当然のことかもしれません。
しかし、中学生たちはまだ社会に出ていないのでこうした利益の重要さを知らない子がほとんどです。
なので自らの保険会社に利益をもたらしてくれる「加入者」のみが、保険の対象となることも
生徒が勘違いしないようしっかりと伝えましょう。
では、具体的にどのような保険金の仕組みになっているのでしょうか?
会社によって仕組みが違うので、ここで説明しきることはできませんが、保険会社の具体例を1つ
上げておきたいと思います。
損害保険
損害保険は、イギリス発祥です。時代は大英帝国として世界各地と貿易をしていた頃まで時計の針を
戻してみましょう。
海上貿易によって、イギリス、大英帝国は多くの富を手に入れましたが、これは同時に極めてリスクの
高い交易方法でもあります。
もちろん、技術が進展した今現在で考えれば海上で船を使った貿易を行うことはそこまで危険ではありません。
(とはいえ、もちろんリスクは0ではありませんし、ちゃんと保険もあります)
しかし、海という巨大な自然を相手にするのはそうたやすいことではありません。
地震が起これば津波が起こってしまいますし、天候によっても船の安全が脅かされます。
当時は造船技術的にも今以上にリスクがあり、何より船が沈んでしまえば、貿易で稼いだものが全て無になり、大損害が出てしまいます。
とはいえ、当時のイギリスの経済発展を支える土台となっていた「海上交易」をやめるわけには行きません。
「何とか海上交易のリスクを減らすことが出来ないだろうか」
ここで考えられたのが、この「損害保険」なのです。
お金のしくみは前述した「保険」と全く同じです。余談ではありますが、今現在でも日本の損害保険会社は
「〇〇海上」という名前がついています。
これはこの海上での保険から、事業が始まったことを表しているのです。
このように、保険を紐解いていくと歴史と現代を結びつける興味深い奥行きがある事がわかるのです。
保険会社の保険はどうするか?
もう1点だけ、生徒からよく来る質問への対策をご紹介します。
保険の説明をしていると、生徒からよく、
「保険会社にいざというときのための保険などはあるんですか?」
とても良い質問だと思います。民間の会社が倒産や大損害を出した時のために保険に入っている
という説明をした後に、保険会社だって民間会社なのにどうしているのだろう?という思考の流れから
質問を投げかけてくるのだと思います。
まず、保険会社が経営が危なくなる時というものを考えてみましょう。
昨今まさにそのような時がありました。ここ最近のそのような時とはいつか、生徒に考えてもらいましょう。
それは、2011年に起こった東日本大震災のような100年、200年に一度起こるか起こらないかのような
大災害が発生した場合です。
保険会社というのは基本的に「統計」を用いて事故の起こる確率などを計算し、利益を算出するのですが
このような大災害が起これば当然机上の空論となってしまいます。
では一体このような場合に備えて何をするのか?考え方は全く同じです。
保険会社を顧客とするさらに大きな保険会社に加入しておくのです。
保険会社を顧客として個人から買い上げる額より大きな額のお金を集め、いざというときには
保険金を支払うというシステムを作ることでリスクを減らすようにしているのです。
まとめ
本稿では、保険の根本的な考え方、仕組み、そして損害保険会社などを具体例として、その仕事内容
を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。
ここ数年、東日本大震災をはじめとして、広島の土砂災害、長野での大地震など日本は大災害に見舞われています。
保険というシステムそのものを改めて見直し、災害対策をしながらも日本が経済的に更に飛躍するために
リスクとうまく向き合いながら進んでいく必要があるのです。
こうした災害があるから、時事問題との関連で出題が予想される、ということだけでなく、生徒に
将来のリスク管理を見つめるきっかけとなってほしい。
そうした思いから保険を生徒にとって学ぶ意義のある授業にするための記事を執筆しました。
講師の方の参考になれたら幸いです。以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!